布団横の携帯が鳴ったので見てみると、その当時付き合っていた彼女からの電話だった。
「おはよー 今日どうすんの? 予定どおりでいいんよね?」
そうか、今日は一緒に神戸に行くとかっていう話だった。
忘れていた訳ではなかったけど、仕事関係のことで頭の隅っこに飛んでいたのは間違いなかった。
『うん、予定どおりで大丈夫だよ。うん、うん、じゃあ後で』
そう簡単に言うと電話を切り、布団から出て準備をすることにした。
まだ頭痛薬を飲んでいなく頭はまだまだ痛い。
でも早く準備しないと。
当時は大阪の富田林(とんだばやし)の実家に両親と住んでいた。
富田林から神戸までは電車で2時間弱くらいなので、「予定どおりで」と言ったものの早く準備をしないと間に合いそうにない。
出発の準備をしている最中、母が唐突に声をかけてきた。
「昨日は帰り遅かったけど大丈夫なの?それでどこで働くことになったの?」
そう、昨日は帰りが遅く、まだ両親に配属先を伝えていなかった。
『保健センターになったわ。そこで何の仕事するかはGW明けに決まるらしいけど』
「保健センターねー。健康に無頓着なあんたが保健センターっておもしろいね。でもなんであんた、保健センターになったの??」
「それでいいわけ、保健センターで??」
はぁ~やっぱりそう言われると思った。。。
そもそも、なぜ配属先が保健センターになったのか自分が一番知りたい訳で、自分から好んで保健センターや保健関連の仕事をしたい、と手を上げた訳ではない。
大学院中退までの学生時代5年間に「保健」という仕事や仕組みについて考えたことなどトータルで10分もないだろう。
つまり全く興味のない対象分野の1つだ。
『いいわけないやん、でも配属されたから仕方ないやん。。。』
と今にも泣きそうな小声で答えた。
「大丈夫よ、あんたならすぐ仕事にも職場にも慣れるから。何年か頑張ったらまた異動なんでしょ?」
何年か・・・
今はまだ何年も先のことなんて到底考えられないよ。。。
神戸に着くと彼女が先に待っていた。
当時の彼女は2つ下の大学4年生の彼女で、彼女自身も就職活動の真っ只中にいた。
「昨日メールしたのにちゃんと返してよ。それで、どこで働くことになったの? 淀屋橋のあのキレイな庁舎?それともWTC? ベンチャー関係の仕事するんだよね?」
と矢継ぎ早に聞かれた。
配属決定前、彼女には、
『経済関係の部署でやっぱりベンチャーの仕事がしたいわおれ。
たぶん配属される気がするわ』
『大卒は淀屋橋にある本庁舎か南港にあるWTCとかに配属されるんじゃないかなー』
と今思えば何の根拠もない妄想事を伝えていたが、真実を隠す訳にもいかないので話すことにしたものの、
『いやな、実はな、、、
なんでか保健センターに配属されちゃってさ~
なんでかな~
ハハハ・・・ 』
もう今まで言ってきたことと現実が違いすぎて、バカにされるのが怖かったからか、とっさに笑ってごまかす素振りをしてしまった。
そして、なんともバツが悪いというか、格好悪いというか、情けない感じにさらに落ち込んでいく自分がいた。
「ほけんせんたー??何それ?? ほけんせんたーって注射したり犬の何とかかんとかしてるとこだよね??
そのほけんせんたーで経済とかあるの??
あれっ!? 淀屋橋とかWTCじゃなかったの??
なんで??
なんで??」
そんなのおれに聞かれても困る・・・
おれが誰かに教えてほしいわ・・・
あんな適当なこと言うんじゃなかったわ・・・
彼女にはうまく説明ができず、なんとも情けない気持ちいっぱいになった。
実際に涙までは出て来なかったが、もう自分の今までの発言と現実が違いすぎて、情けないやら悔しいやらで心のなか大雨の涙。
そんなわたしの気持ちを察したのか、それともどこからみても落ち込んでいるのが分かったのか、
「まあいいやん、どこで働いたって公務員は公務員なんだしさー。
公務員もちょくちょく職場変わるんでしょ?
わたしから見たら公務員になれただけで羨ましいけど。
別にどこの職場でもいいやんもう。もう一生安泰なんだしさ公務員だったらさ。
まあ保健よりは経済関係の仕事してるほうがかっこはいいけどね(笑)」
と慰めと励ましとも呆れとも取れる言葉をもらった。
確かに彼女の言うとおり、どこで働こうが公務員は公務員に間違いはない。
この不況の時代に公務員になれただけでも十分にいいことだろう。
公務員になりたくてもなれない人はいっぱいいる。
もしかしたら早いうちに異動だってあるかもしれないし、それに仕事が意外とおもしろいかもしれないし。
それにいまが一番気持ちの底辺ならこれ以上は下がらないんじゃないか!?
いまさら配属先の変更なんてできない訳だし、この保健センターに数年はいないといけないだろうからやるしかないよなオレ・・・
気持ちの90%はまだ「落胆」で埋め尽くされていたが、10%ほど前向きな気持ちが多少湧いてきた。
そして、同時に急にどうにかなりそうな気がしてきた。
そう、これがわたしの得意武器の1つ、何の根拠もないけど「何とかなりそうな気がしてきた」だ。
GWはまだ始まったばかりだし、GW中に気持ちの整理をつけよう。
うん、それがいい。
いや、そうすべきだよな、うん。
そう考えられるようになるとちょっとだけ気持ちが楽になっているわたしがいた。
なんとなるよな、うん。うん。
続く