配属された係の手島係長が昔からの鬼係長で有名、ということが分かってから1週間がたった。
この1週間の間にちょくちょくと係長席に呼ばれては毎日毎日、手島係長はわたしに説教をしてくる（してくださる）。
・新人は誰よりも早く出社してヤル気を見せてもらわないと困るなー
・新人は出社したら先輩方の机の周りにゴミがないか確認したほうがいいよ
・電話は誰よりも早くでないと。電話が鳴り始める前に「今から鳴る!!」と感じて取らないと
・新人は仕事ができないんだから、先輩の言うことは絶対に聞くようにして忠誠心を見せたほうがいいよ
・ネクタイが歪んでいないかいつも気をつかわないと。ネクタイの歪みは心の歪みっていうでしょ。
そして、しまいには、
・新人はお昼時は先輩方に「一緒にお供していいですか？」と聞くようにして仲良くしてもらう努力したほうがいいよ
・席（自分の事務机）で飲み物を飲むときは、コーヒーは極力飲まないようにしてお茶にしたほうがいいよ。こぼすと大変だから。
と何だかよく分からないことまで言われ始めていた。
わたしの大学院時代のゼミ教授もたいがい説教が大好きな人だったのでそれなりに説教や注意には免疫があったけど、確かに今までの人生であまり怒られたことのない人だと毎日毎日こう細かく言われるとたまらないだろう。
結局のところ、配属されてまだ1週間と浅いが、説教や注意も全て真に受けるのではなく、自分なりに反省すべきところは十分に反省し、聞き流せるところは聞き流すようにした。
まあそうはいってもやはりまだまだ日々の説教には全く慣れそうにはないけど。。。
そんなある日、保健センターの窓口にとある医療関係の助成証を申請しに一人の若い方が来られた。
わたしはまだこの制度はちんぷんかんぷんだったので、向かいの席の村田さん（派手な雰囲気の30代女性）に助けを求めた。
ただ、来客者から詳しい話を聞くと、村田さんにもよく分からなかい複雑な内容だったので、高橋主査を呼ぶことにした。
この助成証の業務担当は高橋主査（50歳くらいのおっちゃん主査）で、詳しい話は高橋主査しか分かる人がいなかった。
基本的にその当時の大阪市役所の窓口は係員（ヒラ職員）がローテーションで対応したり、来客者と目があった人が対応するという形をとっていて、高橋主査や手島係長が窓口に出ることは滅多になかった。
高橋主査に来客対応をお願いしたいと言いに行くと、
「あぁ～行くからちょっと待っててもらって」
と顔を上げずに言われた。
が、すぐに立とうという気配はなく、何か書類作成の仕事を定規とペンを使って引き続き作業をしている。
来客者の方にはセンター奥の長椅子に座って待っててもらったものの、待てども高橋主査が窓口に出てこられる気配はない。
わたしはもちろん、村田さんも業を煮やし始め、
「ちょっとちょっとすだくん、もう1回呼んできてよ。忘れてるんじゃない？」
と言われた。
『あの～高橋主査、すいません、窓口で待たれてるんですけど・・・』
と恐る恐る声をかけると、
「分かってる分かってる。大丈夫だから。行くからもうちょっと待っててもらって。もう終わるから」
どうやら、そんな今すぐしないといけない仕事ではなさそうだが、している事務作業を途中で止めたくないようだ。
そしてわたしは再び来客者の元に向かい、
『申し訳ありません。もうまもなくお呼びできますので、もうしばらくお待ちいただけますでしょうか。申し訳ないです。』
とただ平謝りをした。
村田さんにも『もう来られるようです』とだけ伝えると、
「おっそいよねホント～そんな急がないといけない仕事なんてココにはないはずなのにね～ ね、すだくん」
と小声で言われた。
まあ、まだ配属されたばかりなので、急ぐ仕事があるのかないのかなんて分かる訳ない。
だから愛想笑いするのが精一杯。
と、その時、ようやく高橋主査が事務所奥から書類ファイルを数冊片手に持たれてゆっくりと歩いて来られた。
「あ～わるいわるい、で、お客さんってどこ？」
さすがに新人であろうとも「この人、何も悪いとは思ってない・・・」ということはすぐ分かった。。。
続く。
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基本的にどこの役所の窓口業務も若い職員がいる職では、若い職員が行うことが多いようで、おっちゃん職員が積極的に窓口に出ることは珍しいようです。
今まで退職相談を受けた方の中にも、
「窓口業務を若手一人に押し付ける職場が許せない」
「暇なのにまるで手伝ってくれない役職職員にもう仕事のやる気が出なくなった」
という声を何度も聞きました。
概して歳とともに窓口には出たがらなくなる、というのが役所の一般常識です。
結局こうなると職場内だけの問題にとどまらず、窓口に来られた来客者からすれば非常に迷惑な話です。
まあだからこそ役所の窓口はトロトロとのんびりしている、と批判が出てくるのでしょうけど・・・
