【公務員からの教え 3-12】 初めての窓口業務

保健センターの窓口に来られた20歳ちょっとの女性の方に、
『おまたせしました・・・』
とどう声を発していいものか分からないまま、取りあえず窓口にでてみた。
「母子手帳もらえますか?」
『は、はぃ、ぼ、ぼしてちょうですね。』

小山田さんの予想どおり母子手帳の用事だった。
来客者を見ただけで何をしに窓口に来たのか分かるものなのか、とちょっぴり感動ものだ。
ただ、いまのわたしにはこの先のフローは一切分からない。
そもそも母子手帳という名前は聞いたことはあっても、一体母子手帳が何なのかよく分かっていない。
たぶん自分もあるんだよな・・・見たことないけど。
すると、小山田さんがいつのまにかわたしの横に立っていて、
「はい。母子手帳ですね。じゃあコレとコレの太枠内に名前とか書いてもらえますか。あちらに座ってどうぞ」
と慣れた手つきで書類、書き方見本をさっと窓口下のカウンターから出して来客者を庁舎奥の座れるカウンターに通した。
カウンターに通し、母子手帳をもらうための書類を書いてもらってる間、小山田さんがけっこうな早口でさーと母子手帳の発行方法の説明をはじめた。1分ちょっとくらいだろうか。
「○×△◆※◇▽◎■~~ はい、こんな感じね。分かった?」
正直まったく分からなかった。
業界用語が要所要所に挟まり、けっこうな早口でさーと説明されたので、この説明法で分かる人っているのだろうか、と。
『すいません、、、、よく分からないです、、、すいません、、、、』
と、正直に分からないことを言うと嫌な顔をされるかな、と思ったらそうでもなく、
「そうよね、そりゃすぐには分からないわよね。まあやりながら覚えたらいいから」
とあっさり言われた。
分からなくても仕方ないという前提での説明だったのかもしれない。
そして今回の来客者の窓口業務をテキパキとこなされた。
横で見ていたものの、正直いまいち要領がつかめなかった。
まあわたしの物覚えが悪いだけなのかもしれないけど・・・
初めての来客者に母子手帳を渡し終える仕事が終わってから小山田さんに聞いてみた。
『すいませんでした。早く覚えるようにします。あの、、、窓口マニュアルとかあれば一度見たいんですけどないでしょうか?』

「マニュアル?えっ、そんなのなかったんじゃないかな。あっても誰も読まないでしょ。」


『そうなんですか、、それならどんな窓口業務があって、どうすれば最低限のことが分かるものないですか??』

「ないわねそういうのもー まあやりながら覚えてもらったらいいから。そのうち覚えるから。」

『そうなんですか、窓口研修とかってないんでしょうか?』

「して欲しいの?して欲しいならするけど、そのうち覚えるからいいんじゃない(笑)」
そ、そんな軽い感じでいいのか疑問に思ったが、新人のわたしにはこれ以上何も言えなかった。
これが人生初の窓口業務だ。
まあ内容はよく分からなかったが、窓口業務は意外とおもしろそうかもしれない。
続く。
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公務員時代は、窓口対応マニュアルや統一された窓口対応法がないことは非常に驚きでした。
大阪市役所だけじゃなく、わたしが個別相談をしていくなかで気がついたことの一つに、役所内の窓口業務を始めとした各業務を統一して行うための「対応マニュアル」や「全体研修」が存在しないことです。
例えば大阪市の場合、24区全てに保健センターがありますが、同じ大阪市内なのに区ごとに窓口対応の方法や窓口で渡す書類が違ったりすることもありました。そしてひどいことに同じ区内なのに、対応する職員のレベルによって受けられる窓口案内に相当な差さえ生じています。
私が職員在職中には、24区の窓口担当を集めての窓口研修のようなものは一度もありませんでした。
これはつまり窓口対応マニュアルが存在せず、口頭→口頭とまるで伝承のように窓口業務方法が伝えられていくため、決まった対応法がそもそも存在しないからです。
なぜ窓口マニュアルを作らないのかは簡単なことで、
1)作成が面倒くさい
2)頻繁に法令や内容が変わるからいちいち対応しきれない
というものでしょう。
ただ、市役所窓口に来られる市民は、どこの窓口であっても、どんな職員にあたっても、銀行などの窓口業務のような同じレベルの窓口対応を当然に求めるものです。
どこの窓口でも、どんな職員にあたっても統一的な窓口対応が行えるよう、対応マニュアルの作成と全体の継続的な研修は最低限必要ではないでしょうか。
役所は待遇や組織など自らのことには統一的な仕組みを求めるにも関わらず、対市民となると個々の職場、職員の判断に任せすぎです。

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